糖質制限とケトジェネシス

第44回 糖尿病食事療法の変遷

アメリカの糖尿病食事療法の変遷

1900年代の初頭は、アメリカもヨーロッパも糖質制限食は糖尿病食の主流でした。事実、糖尿病学の父と呼ばれるエリオット・ジョスリン医師の1916年の初版「ジョスリン糖尿病学」には、炭水化物は、1日の摂取カロリーの20%(炭水化物は糖質と食物繊維の合計ですから糖質比率はもっと低くなる)が標準だと書かれているそうです。

一方、当時、すでにI型糖尿病の存在は知られていましたが、平均余命が6か月という為す術がない病気でした。ジョスリン先生のハーバード大学の医学部の同期であるフレデリック・アレン先生はこのI型糖尿病に対し、摂取カロリーを1日400Kcalとする「飢餓療法」を考案し実践しましたが寿命を数ヶ月から最大でも2年程度延ばすのが限界でした。

ところが、1921年糖尿病の治療にとって画期的な発見が起こりました。カナダのフレデリック・バンテイング先生と医学生のチャールズ・ベストがインスリンの抽出に成功したのです。翌年、I型糖尿病の14歳の少年にインスリンを投与し、血糖のコントロールに成功しました。これはI型糖尿病(II型糖尿病にも)の治療には福音をもたらしましたが、同時に糖尿病治療にとって最も重要な糖質制限の意義を欠落させてしまいました。すなわち、糖質を多く摂ってもその分インスリンを打てば血糖値はコントロールできるという皮肉な結果です。

その後アメリカの糖尿病患者の糖質摂取量は増え続けました。

1950年にアメリカ糖尿病学会(ADA)のガイドラインが制定されました。これでは糖質(炭水化物)40%を推奨しています。

1971年のガイドラインでは糖質45%に増え、1986年のガイドラインでは60%まで増えております。これは第29回のブログで紹介した「脂質悪玉説」の流れによるものと思われます。すなわち、心臓病の増加の原因とされた脂質の摂取量を減らすことが結果として糖質摂取量を増やしたという訳です。当時、心臓病の発症につながる肥満の原因が脂質の摂りすぎによるものと思われていたからです。

その後の経過は第29回のブログでもご紹介した通りです。

1993年のADAでは、糖尿病治療食における炭水化物と脂質の割合の固定化を撤廃しました。そして、糖質量をカウントして減らす方向へ指導する糖質管理食が広まり、糖質摂取比率40%が一般的になりました。

2008年、2011年、ADAは期限付きではありますが、肥満糖尿病患者に、糖質管理食の有効性を認めました。

そして、2013年、遂にADAは糖質制限食を厳格なものも含め「治療食」と認定しました。ちなみに、低炭水化物食とは「1日糖質量 130g以内」の食事です。

日本糖尿病学会の食事療法のガラパゴス化

一方、日本国内はどうでしょう。日本では今もなお1970年代の「脂質悪玉説」を引きずっており、相変わらず、日本糖尿病学会は、脂質の過剰摂取による高カロリー食が糖尿病を増加させたとの立場から、カロリー制限(すなわち脂質を減らす)をメインに、糖質の摂取比率は60%のままで食事指導を行っております。2019年に日本糖尿病学会もいよいよ欧米並みに糖質制限に舵を切る食事療法を提言すると期待しましたが、開けてみれば従来のものと変わりなくたいへん失望しました。

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