現代貨幣理論(MMT)
皆さんは、現代貨幣理論( MMT Modern Monetary Theory以下MMTとする)について、聞いたことがありますか?
2018年に、アメリカで、最年少下院議員として当選した、オカシオ・コルテス氏がこの理論を支持し、全米にSNSで拡散させ、大論争になりました。
翌年の19年には日本にも波及し、その提唱者であるステファニー・ケルトン氏やビル・ミチェル氏、そして、本ブログでも紹介する「現代貨幣理論入門」の著者であるランダル・レイ氏らが続々と日本に来られ、講演されました。
日本でも、中野剛志氏、藤井聡氏、三橋貴明氏などはこの理論を支持しており、先に述べた諸氏の来日には、特に、藤井聡氏が尽力されました。
マスコミ各社は、「自国通貨建の国債なら、政府は破綻しない。だから、無制限な支出の拡大は可能だ(実はMMTは無制限の支出拡大は可能だとは言っておりません)」という理論に対し、トンデモ理論だとか、異端だとか、極端だと言って批判しました。また、「国債が無限に出せるのであれば、無税国家も成り立つだろう」とも言われました。
実は、これらの批判はMMTが何を解き明かしたのか、そして、それに基づいて提唱される経済政策の転換がどういうものなのかをしっかり理解しない、あるいは理解しようとしないことから来る、全く的外れな批判です。
今回はMMTの成り立ち、ランダル・レイ氏の著書「現代貨幣理論入門」の最初に書かれている概要について触れます。
これから紹介するMMTは、経済学者や政策担当者が受け入れている主流派経済学が大きな間違いを犯していることを暴くことになります。
私たちが使っている貨幣とは何かを理解することは、「天が回っているのではなく、実は地球が回っている」と解いたガリレオ・ガリレイの地動説を理解することに等しく、それによってパラダイム・シフトが起こリます。
MMTの歴史
MMTは、最近、フッと湧いた理論ではなく、20世紀初頭の、歴史学者のクナップ、あの有名なニューデイール政策の提唱者であるケインズ、シュンペーターなどの理論を原型とし、ラーナー、ミンスキーなどの業績も取り込んで、先に述べたステファニー・ケルトン氏やビル・ミチェル氏、そして、ランダル・レイ氏らによって1990年代に成立したという系譜を持っています。
ちなみに、MMTの名付け親は、オーストラリアのビル・ミチェル氏だと言われています。
MMTの基礎 ランダル・レイ氏「現代貨幣理論入門」
MMTの基礎 要旨
1.過去、4000年間、我々の貨幣制度は「国家貨幣制度」であった。
国家が計算貨幣を決め、それを単位として表示される義務(租税、地代、罰金など)を課し、そうした義務を果たすための支払い手段となる通貨を発行する制度である。
2.政府が支出して通貨を生み出し、納税者が国家への支払い義務を果たすためにその通貨を使っている。
3.主権を有する政府が、自らの通貨について支払い不能になることはあり得ない。自らの通貨による支払い期限が到来したら、政府は常にすべての支払いを行うことができる。
4.政府が支出や貸出を行うことで通貨を創造するのであれば、政府が支出するために租税収入を必要としないのは明らかである。さらに言えば、納税者が通貨を使って支払うのであれば、彼らが租税を支払うようにするために、まず政府が支出をしなければならない。このことは、200年前では明らかであった。国王が支出のために文字通り硬貨を打ち抜き、その後、租税の支払いを自らの硬貨で受け取っていた。
5.政府は支出するために、自らの通貨を「借りる」必要がない。そもそも、まだ支出していない通貨を借りることなどできはしない。このため、政府による国債の売却は借入れとはまったく異なるものである。
6.政府が国債を売却する際、民間銀行は中央銀行に保有する準備預金を使って国債を購入する。中央銀行は、国債を購入する銀行の準備預金から代金を引き落とし、銀行に国債を振り替える。これは、国庫(政府)による借入れと理解するよりも、あなたがより多くの利息を得るために、自分の預金を当座預金口座から貯蓄預金口座に移すのに似ている。国債とは実は、準備預金よりも多くの利息を支払ってくれる、中央銀行による貯蓄預金口座にほかならない。
7.国債の売買は、金融政策オペレーションと機能上同等である。
中央銀行と民間銀行の国債売買により、翌日物金利の誘導目標を達成するのを助ける。
8.最近のアメリカでは、FRB(アメリカの中央銀行)が、準備預金に利息を付しているため、準備預金を持つことは、国債の保有と機能上同等となっていることから、政府支出を「ファイナンス」するにも、中央銀行の金利誘導目標の達成を助けるのにも、国債は必要なくなっている。
9.政府は、銀行、企業、家計、外国人が利息を得るための手段として、利息の付く国債を提供している。これは政策上の選択肢であって、必要不可欠なものではない。政府は支出をする前に国債を売却する必要はない。それどころか、銀行が国債を購入するのに必要な現金通貨や準備預金をまず政府が供給していなければ、国債を売却することもできない。政府は、支出すること(財政政策)もしくは貸すこと(金融政策)のいずれかによって、現金通貨と準備預金を供給しているのである。だから。租税と支出の関係-徴税は支出の後に生じる-とまったく同じように、国債の売却は、政府が現金通貨や準備預金を支出し、または貸し出した後に生じるものだと考えるべきである。
10.150年前、銀行は、融資を実行する際に独自の銀行券を発行していた。借り手は、銀行券を銀行に渡すことで借入を返済した。借り手が銀行券を使って返済できるようになるためには、先に銀行が銀行券を創造しなければならなかった。今日は、銀行は融資を実行する際に預金を創造し、融資はそうした銀行預金を使って返済される。
11.租税制度の主な目的は通貨を「動かす」ことである。
人々が主権国家の通貨を受け取る理由は、その通貨で租税を支払わなければならないからである。租税義務は、その支払いに使われる通貨に対する需要を生み出す。租税の本当の目的は、政府に支出の「財源」を供給することではない。政府自身の通貨に対する需要を生み出すことで、政府がそれを支出手段として(あるいは貸出手段として)使えるようにすることである。
12.国家の貨幣を最上位とする貨幣ピラミッドが存在する。
13.公共目的の政府支出は、少なくとも国全体の経済資源が完全雇用になるまでは有益である。
14.我々が今直面する金融と経済の苦難に対する解決策は、主権通貨の発行者の手を根拠のない赤字や債務の上限で縛ることではない。
均衡予算が意味するのは、政府の支出によって供給された政府の通貨がすべて納税により「返却されて」しまい、その結果非政府部門には何も残らない-「雨の日」のために取っておく余裕資金がない-ことである。
政府の債務(現金通貨、準備預金、国債を含む)は非政府部門の金融資産である。政府の赤字は非政府部門の黒字に等しく、その結果所得が生まれて貯蓄になる。貯蓄とは政府に対する債権であり、最も安全な資産である。
主権を有する政府が自らの通貨で支払い不能になり、期日における支払いが意図せず滞ることなどあり得ないからだ。
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