経済

第71回 コストプッシュ・インフレ

コストプッシュ・インフレ

以前のブログで、適度なインフレは経済成長に望ましいものだと論じてきました。

しかし、日本を含めた今世界で起こっているインフレは望ましいものではありません。現在のインフレは、原油高、物流の停滞、半導体の供給不足などを背景にしたインフレです。

日本では以前に比べ、長期停滞の日本を救うべく積極財政を唱える方々が、国会議員を含め多くなってきましたが、緊縮財政を唱える論者たちは、このインフレ状態をチャンスと捉え、「インフレ抑制」のための緊縮財政論で攻勢ををかけております。

しかし、これは供給不足による「コストプッシュ・インフレ」と、需要増による「デマンドプル・インフレ」を履き違えたものです。

実は、「コストプッシュ・インフレ」を克服するにも、やはり、「積極財政」が不可欠なのだと、中野剛志氏は論じます。

アメリカでの論争

バイデン政権は、成立直後から、画期的な経済政策を打ち出し、その第一弾となったのは、「米国救済計画」と称する1.9兆ドル(約220兆円)もの大型追加経済対策でした。

新型コロナウイルス対策の医療対策に加えて、現金給付や失業給付の特例加算、そして地方政府支援などで構成されておりました。

さらに、バイデン政権は「米国雇用計画」として、8年間で2兆ドルを投じる計画を発表しました。しかし、共和党の反対もあり、約1兆ドル(約116兆円)に減額されはしたものの、巨額であることに変わりはありません。

今後、さらに1.75兆ドル(約203兆円)の人的資本投資の計画を準備していると言われております。

現在、そのアメリカでは、11月の消費者物価上昇率は前年同月比6.8%となり、約39年ぶりの高水準に達しています。そして、この久しぶりのインフレと財政政策との関係を巡って、論争が起きています。

バイデン政権の積極財政に対して、インフレの高進を懸念し反対する声もありますが、バイデン政権の財務長官ジャネット・イエレン氏は、需要が供給を上回るインフレ気味の経済を作り出すことが、短期のみならず長期の経済成長を促すのだと主張しております。

日本での論争

日本でも、財政再建派と積極財政派の論争が起きており、その論点の一つがインフレです。

積極財政派は、積極財政によってデフレを脱却すべきだと主張するのに対し、財政再建派は、それではインフレが制御不能になると反対します。

「デマンドプル・インフレ」と「コストプッシュ・インフレ」

インフレを論じるにあたって、インフレには「デマンドプル・インフレ」「コストプッシュ・インフレ」があることを踏まえておく必要があり、そうでなければ、政策を間違えることになります。

「デマンドプル・インフレ」とは、需要が旺盛になり、供給が追い付かずに物価が上昇し続ける現象です。

これに対して、「コストプッシュ・インフレ」とは、供給が制約されることで起きる物価の上昇で、まさに、今起こっている原油高、物流の停滞、半導体の供給不足などを背景にしたインフレです。

1970年代のアメリカや日本の高インフレは、石油危機による「コストプッシュ・インフレ」でした。

一方、「デマンドプル・インフレ」とは、政府による消費や公共投資がもたらす公需の増大が引き起こすインフレです。

従って、政府の財政政策によっての「デマンドプル・インフレ」は、需要を喚起することによって、民間投資を促進し、経済成長に結びつきます。

しかし、「デマンドプル・インフレ」が行き過ぎた場合は、緊縮財政によって需要を抑制し、インフレを収めることができます。

「コストプッシュ・インフレ」の克服には、「積極財政」が不可欠?

中野氏は、供給の制約に起因する「コストプッシュ・インフレ」の場合については、緊縮財政によって対応しようとするのは、適切ではないと以下のように論じています。

もちろん、「コストプッシュ・インフレ」の場合であっても、緊縮財政によって需要を縮小させ、供給の水準に一致させれば、確かにインフレは収まるのかもしれない。しかし、それは、縮小した供給の水準に合わせて、需要を縮小させる、すなわち、国民をより貧しくすることを意味する。

インフレを抑えるために国民を犠牲にするような政策は、悪手であろう。

「コストプッシュ・インフレ」の原因は供給の制約にあるのだから、その対策は、供給の制約を緩和するような政策でなければならない。

例えば、石油危機であれば、新規の油田開発や石油に代わるエネルギーの開発が必要になろう。食料危機であれば、食料生産の拡大が必要であろう。より短期的に効果を上げたければ、エネルギーや食料に関する課税や関税を軽減するという方法も考えられる。

あるいは、徹底的な合理化によって効率性を高め、生産性を上げることで、供給制約を緩和するというのも、有力な対策である。特に、抜本的に生産性を上げるためには、交通、通信、電力などのインフラの整備、研究開発、人材の育成などが必要であろう。

しかし、上記に挙げた対策のうち、石油代替エネルギーの開発、食料生産の拡大、インフラの整備、研究開発、人材の育成などは、大規模・長期的・計画的な公共投資、あるいは民間投資に対する助成・支援がなければ困難であろう。

要するに、これらの「コストプッシュ・インフレ」を克服するためにもまた、結局のところ、積極財政を必要とするということである。

もちろん、その積極財政は、供給能力が完成するまでの間は、投資需要を拡大するから、インフレをさらに高進してしまうリスクはあるだろう。しかし、そういうインフレ・リスクを回避したければ、低インフレであった間に、公共投資を拡大しておくべきだったのだ。

だが、それをやっていなかったのなら、インフレ・リスクを甘受するしかあるまい。「コストプッシュ・インフレ」を克服するためには、供給能力の拡大が不可欠であり、供給能力の拡大は、投資なくしては不可能だからだ。

日本の経済の実態

現在の日本は、11月の企業物価指数が前年同月比9.0%と、41年ぶりの高水準となっているというのに、消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は前年同月比▲0.6%です。

企業物価指数の急騰は「コストプッシュ・インフレ」を示しており、消費者物価指数の下落は、「デフレ」を示しています。

日本は、アメリカ以上に、大規模・長期的・計画的な積極財政が必要であり、「コストプッシュ・インフレ」を悪用し緊縮財政を唱える「緊縮財政派」の主張に騙されてはいけません

 

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