経済

第77回 大学共通テストに出題された信用創造とリフレ派政策の失敗

大学共通テストに出題された信用創造とリフレ派政策の失敗

今年の大学共通テストの政治経済の問題の中に、銀行の信用創造の理解を問う問題とリフレ派による日銀の量的金融緩和政策がなぜうまくいかなかったのかのヒントになる問題が出題されましたので紹介します。

信用創造

まず、銀行の信用創造の理解を問うものです。

以下の通り、銀行の貸出前と貸出後のバランスシートが示されていて、更に、下のメモには、個人や一般企業が銀行から借り入れると、市中銀行は「新規の貸出」に対応した「新規の預金」を設定し、借り手の預金が増加する。他方で、借り手が銀行に返済すると、市中銀行の貸出と借り手の預金が同時に減少する、とあります。

これは、市中銀行が日常的に行なっている信用創造のことを言っているのです。

銀行の貸出後のバランスシートを見ていただくと、お分かりのように、新規の貸出は銀行の資産に計上され、一方で、同じ分、新規の預金が銀行の負債・純資産として計上されていることがわかります。

従って、正解は④で、市中銀行は「新規の預金」を創り出すことによって個人や一般企業に貸し出すので、銀行貸出は市中銀行の資産と負債を増加させる、と言うことになります。

銀行は、個人や一般企業に貸出をするのに、元手の資金は必要なく、借り手の資金需要により、貸出、すなわち借り手の預金を生み出せるのです。

実は、銀行は政府に対しても国債を担保に信用創造を行なっております。

銀行が、金利のつく政府の発行した国債を日銀にある銀行の当座預金で買うことにより、日銀にある政府の当座預金を同額増やすことになります。政府はこれを使って財政支出をするのです。(下図)

その結果、国債発行による政府の支出は、国民の所得を増やすことになります。

主流派経済学派と言われる財政破綻論者は、そもそも信用貨幣論の理解がなく、また、貨幣のプール論に基づき、政府が国債を発行すると、それを買い入れる資金は有限な国民の貯蓄から賄われているものと誤解しているのです。

ですから、国債の増発によりやがて国民の貯蓄が底をつき金利が高騰すると主張しているのです。

そもそも国債の売買は国民が使えない日銀の当座預金で行われていますので、国民の貯蓄に何ら影響を与えません。

国債は政府の発行した通貨である

また、財務省や緊縮財政派の経済学者、マスコミなどは、国債を借金として捉え、将来の子や孫に付け回すなと、と喧伝しておりますが全くのデタラメです。

借金ということは、将来借金をした相手にそれを返済しなければなりません。

しかし、国債は、政府が発行するもので、その際、誰からも借金をしておりません。

政府が発行した国債は、銀行によって日銀にある銀行の当座預金で買われます。銀行にしてみれば金利が付く国債の方が有利だからです。

では、国債を買うための日銀にある銀行の当座預金は、どこから提供されたのでしょうか?

元を正せば、それは政府です。

政府がまず、銀行に国債を提供し、日銀がその国債を買い取って銀行に日銀当座預金を提供しなければ、銀行は日銀の当座預金を使って国債を買えません。

従って、政府の発行する国債は通貨として捉えられ、その発行は政府の政治的な意思に委ねられることになります。

新しい政府が誕生した直後を考えてみてください。

日本政府は、円を国定通貨と定め、それによって納税するよう日本国民に課します。

しかし、この時点では日本国民の手元に通貨はなく、納税することはできません。

そこで政府は、国民に国家にとって必要な事業を行わせ通貨を稼がせ納税させます。

国民の仕事は公務員としての行政サービスであったり、道路や橋を作ったりする公共事業であったり、農業や漁業であったりします。

政府が先に支出しないと、国民は納税ができませんから、税金は財政を賄うためにあるのではないことがわかります。

ここで、もし国民が稼いだ労働の対価として支払われた通貨が、全て税金として徴収されたら国民には通貨が全く残らなくなり、国民は経済活動ができません。

つまり、これがプライマリーバランスをとるという事であり、プライマリーバランスの黒字化とは、更に政府が国民から資産を奪い取る事になり、国民は赤字になります。

全く、ナンセンスな話だと思いませんか!

リフレ派による日銀の量的金融緩和政策がなぜうまくいかなかったのか

もう一つは、リフレ派による日銀の量的金融緩和政策がなぜうまくいかなかったのかのヒントを問うものです。

X君は、日銀が市場での国債や投資信託を売り買いすることで、個人や一般企業が保有する通貨量を変動させていると理解しているようですが、Y君はそれに異議を唱えています。

例えば、日銀が市中銀行から国債を買い入れても、増加するのは市中銀行が保有する日銀当座預金の残高であって、個人や一般企業が保有する通貨量、つまりマネーストックを増やすのではない。

個人や一般企業の資金需要によって、市中銀行が貸し出すことで、マネーストックが増えるのです。

正解は①

第二次安倍政権が行なってきた、そして今も行っている日銀の金融政策で、マネタリーベース、つまり、銀行の日銀当座預金は500兆円も積み上がりましたが、全く消費者物価指数は上がりませんでした。これは、個人や一般企業の需要がなければ、銀行の貸し出しは増えず、いくらマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えないということです。

デフレ下では、経済合理的に行動する個人や一般企業は消費や投資を増やしません。

ですから、政府の積極的な財政支出が需要を喚起し、個人や一般企業に消費や投資を促すと、マネーストックが増えます。

デフレ対策で必要なのは、金融政策ではなく(金融政策は否定しませんがデフレで金利が0%では効果はない)、積極財政政策だということです。

大学共通テストは、日本の経済政策の正解を提示しました。

 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA