通貨を生み出す方法
通貨を生み出す方法は2つあって、1つは政府が国債を発行し、銀行が国債を買うことによって、政府の日銀当座預金を増やし、それを元に財政支出する場合と、もう1つは、家計や企業の資金需要により、銀行が銀行預金を創造する場合です。
後者の場合、主流派経済学は、通貨供給が貸出と預金を生み出すという立場で、これを「外生的貨幣供給論」と言い、MMTは、銀行貸出が預金と通貨を生み出すという立場で、これを「内生的貨幣供給論」と言います。
どちらが、正しいのでしょうか。
今年の大学共通テスト 現代社会に出題された問題
それはさておき、今年の大学共通テストの現代社会に以下の問題が出題されました。
外生的貨幣供給論
信用創造がどのような過程で起こるのかを確認するために、図や説明文を作ったとあります。
図の説明によると、D社がA銀行に1000万円預金することから始まり、各銀行が預金準備率を満たす必要最低限度の準備金を中央銀行に預け、残りの預金はすべて融資に回すとしています。この場合、A銀行は過不足なく準備金を中央銀行に預け、預金増加額のうち残りの700万円すべてを資金運用のためにE社に融資するとしています。また、E社から預金を受け入れたB銀行はA銀行と同様の行動をとり、F社へは中央銀行に預ける210万円を差し引いた残り490万円を貸し出すとあります。このときF社がC銀行に490万すべてを預けた段階で、これら3つの銀行が受け入れた預金の増加額は、A銀行1000万、B銀行700万、C銀行490万、合計2190万となり、D社が最初に預け入れた1000万の倍以上に増えており、社会全体の通貨供給量が増えていることが分かるとされています。
A、B、C銀行ともに、現金を取得した対価として、債務としての預金残高が増えたということです。
ただし、B銀行が取得した現金は、もともとはA銀行がE社に貸出を行ったことで生じたもので、同様にC銀行が獲得した現金も、B銀行がF社に貸出を行って生じたものです。
したがって、銀行システム全体としてみれば、貸出債権という金融資産を取得した対価として、「預金」という自らの債務残高を増やしたと見ることができます。
このように、銀行貸出によって新たなマネーストックが生み出される仕組みは、「信用創造」と呼ばれます。
主流派経済学では、大学共通テストの問題のように、民間銀行に外部から新たな通貨が供給されることで、それに基づいて貸出が行われ、その結果預金という貨幣が生み出されるという「外生的貨幣供給論」の立場をとります。
つまり、主流派経済学にとって銀行貸出とはあくまでも、預金者から借り入れた「通貨=商品貨幣」を「又貸しする」行為なのです。
したがって、その過程で新たに創造される預金は、預けられた通貨から派生するものとしております。
主流派経済学では、外部から通貨が供給されれば、銀行は準備金に相当する額を除き、残りすべてを必ず貸出に回すと想定されております。
それによって、マネタリーベースとマネーストックの間には、必ず比例関係が成立すると。
これを基に、大学共通テストの問いは預金準備率の変化が預金の変化をもたらす、すなわちマネタリーベースの変化がマネーストックの変化をもたらすとしています。
しかし、現実には、家計や企業の資金需要がなければ、銀行は外部から通貨が供給されても、それを全て貸し出すことはできません。
これが、間違いであることは、日銀の大規模金融緩和によって証明されました。すなわち、マネタリベースを増やしてもマネーストックは増えませんでした。
内生的貨幣供給論
では、MMTは預金の発生メカニズムをどのように説明しているのでしょうか。
「貸出には原材料である通貨が必要」と考える主流派経済学では、A銀行にD社が現金を預け入れるところからスタートします。
しかし、MMTによれば、A銀行が通貨を保有していることを前提としません。
銀行貸出を行う際、通貨は必要ないからです。
A銀行のE社の口座に「預金700万」「貸出金700万」と入力するだけです。
E社は700万の借金を負う代わりに同額の預金を手に入れたことになります。
主流派経済学では、A銀行が700万の現金をE社に貸し出すことになりますが、MMTではA銀行がE社に貸したのは現金ではなく無から生み出した預金であり、E社は貸し出された預金と引き換えにA銀行から現金を受け取ったと考えます。
主流派経済学では「貸出には原材料である通貨が必要」としますが、そもそもMMTはA銀行に預け入れたD社の現金はどこから来たのだろうかという点にも立ち返ります。
D社の現金は、もしかしたら、元請けのG社から代金として得たもので、G社が工面した現金は、D銀行から借り入れたものだったとしましょう。この場合、D社の現金もまた、D銀行の信用創造によって世に出たことになります。
このように、マネーストックが借り入れその他の資金需要に基づいて変動するという考え方は、「内生的貨幣供給論」と呼ばれております。
ここで、もう一度整理してみます。
銀行預金とは
主流派経済学は、通貨供給が貸出と預金を生み出すという立場で、MMTは、銀行貸出が預金と通貨を生み出すという立場です。
第77回のブログでは、銀行の貸出前後のバランスシートを使って、銀行は借り手の債務(借入金)を購入するため、貨幣として機能する自らの債務証書(預金)を文字通り無から創造していることを理解するものでした。
このように銀行貸出が預金と通貨を生み出すとされ、イングランド銀行の季刊誌も「商業銀行は、新規の融資を行うことで、銀行預金の形式の貨幣を創造する」と書いていますし、我が国の全国銀行協会が編集している『図説 わが国の銀行』にもこう書いてあります。
「銀行預金とは」の問いに対し、イングランド銀行も全国銀行協会もMMTの見方を支持しています。
共通テストの問題をもう一度振り返ってみますと、E社がA銀行から融資を受けるとき、主流派経済学では、D社の預け入れから準備金を除いた700万が貸出の上限ということになりますが、一方、MMTでは、E社が返済できるとA銀行が判断すれば、E社はその限度まで融資を受けることができます。
銀行は借り手の債務(借入金)を購入するため、貨幣として機能する自らの債務証書(預金)を文字通り無から創造しているのです。
第77回のブログでは、今年の大学共通テストの政治経済の問題の中に、銀行の信用創造の理解を問う問題とリフレ派による日銀の量的金融緩和政策がなぜうまくいかなかったのかのヒントになる問題が出題されたことを取りあげました。
一方で、今回のブログで取りあげた大学共通テストの現代社会の問題は、出題者が「銀行預金」やマネタリーベースとマネーストックの関係を正しく理解しておらず、共通テストとしては不適切だと思いました。
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