経済

第95回 インフルエンサー池上彰氏の虚言

7月18日放送のMBS『よんチャンTV』では、スタジオにジャーナリストの池上彰氏が呼ばれ、物価高のカギを握るとする「日本銀行の政策」などについて解説しました。

池上氏は、池上彰さんに聞く!「止まらない物価高に出口はある?」のタイトルのもとで、以下のように発言されました。

池上氏の言っていることは正しいのでしょうか?

検証して行きましょう。

 

―――金融緩和を続けるべきか、やめるべきか。比べてみるとどうなのでしょうか?
「なんで金融緩和をやっていたかというと、いわゆるアベノミクスですよね。とにかく金融緩和をすれば、金利を下げれば円安になるでしょ。そうすると輸出にはものすごく利益があるわけですよ。例えば自動車産業だったりすると、円安になると海外でこれが安くなるので、それによって日本の経済を良くするということをしてきたんですね。これまでは結構良かったんですけど、金融緩和を続けると、今後は外国との金利にさらに差が出てくるということになると、みんな『高金利のドルの方が得だ』と円を売る動き、円安になる。輸入品がどんどん値上がりをする。つまり、これまでアベノミクスはそれなりの効果があって良かったんですよね。でもこれだけの差がついてしまうと円安になり、輸出にはいいんですけど輸入品がみんな値上がりをする。石油も買っているわけでしょ。石油の価格も円安ですから高くなるわけですよね。そうするとありとあらゆるものが値上がりすることになっていく。プラスチック製品は全部これ石油製品ですから、私たちの身の回りのプラスチック製品もみんな値上がりしてしまう。でも、じゃあ金融緩和をやめたらどうなるのか。今、景気を良くしようとして金融緩和をしているわけですから、逆に金融緩和をやめちゃうと景気がまだまだ当分良くならないってことになる。さらに、結局、金融緩和をやめるということは金利を上げるということですよね。そうすると日本は国債を発行してますよね。国の借金ですよね。今はこれは非常に低い金利で国債が発行できているんですけど、金利が上がるということは、日本が国債を発行するときの利子が、返済額が増えてしまう。ということは新たな国債を発行しようとしても『金利が高いよね。借金返済するときにはちょっとこれじゃできないよね』ということになり、これまで大量の国債を発行しているわけですけれども、新たに国債が発行できなくなると財政状態が大変な状態になってしまうというわけで、国の財政が破綻っていうのはちょっと大げさですけど、国の財政がかなり厳しくなる危険性があるってことですよね」

―――国債って日本銀行もたくさん持っていますよね。金利が上がると、日本銀行としてはたくさん持っている国債をどう考えることになるのでしょうか?
「経済学的にちょっとややこしいんですけど、金利が上がると、今持っている過去に発行した国債の価値が下がるんですよ。これちょっと難しいかもしれませんよね。例えば、5年後に100万円で戻ってきますよという国債を98万円で買っていれば、2万円部分が利息になりますよね。ところが金利が上がるってどういうことかというと、例えば97万円で出すと3万円の利息がつきますよね。つまり金利が上がるっていうことは、現在の国債の価格が98万円じゃなくて97万円になるってことですね。つまり今、日銀がたくさん国債を持っているんですけど、持っている国債の価値がどんどん下がるんですよ。となると、日銀がこれから損害が出るかもしれない。日銀に損害が出るってどういうことって思うかもしれませんけど、日銀って利益が上がればそれを国に納めているんですよ。要するに国の財政状態が潤うんですね。ところが日銀がそれだけの利益が出ない、損害が出ると、国に納めることができない。国の財政状態がさらに悪くなるし、日銀がどうも損害が出ているらしいということになると、日銀が発行している商品の評判が落ちるわけですね。日銀が発行している商品はお金です。つまり日本のお金の価値が下がるかもしれない。一段と円安が進んでしまうかもしれないというわけで、実は日銀にも大きな影響があるということなんですね」

日本のGDPが増えないのは緊縮財政による

確かにアベノミクスの狙いの中に、金融緩和による円安誘導があったことは、政策ブレイン(内閣府参与)であったイエール大学名誉教授の浜田宏一氏も述べておりました。

しかし、アベノミクスで掲げれれた三本の矢のうち、積極的な財政政策は充分行われず、第二次安倍政権の1年目だけにとどまり、その後は基本的には緊縮財政で、2回の消費税増税まで行いました。

その結果、日本のGDPは橋本政権による3→5%消費税増税後、現在に至るまで(菅政権、岸田政権においても緊縮財政)の24年間ほとんど成長しておりません。

一方、イギリス、イタリア、アメリカ、カナダなどの先進諸国は、着実にGDPを伸ばし、緊縮財政と言われるドイツでさえも日本よりはるかに成長しております。

以下は1990年から2018年までの物価上昇率の推移ですが、ご覧の通り、日本は長期に渡りデフレだったと言うことです。

1997年と2014年に物価が一時的に上昇しておりますが、消費税増税によるものです。

物価の上昇率は本来、外的要因に左右される生鮮食料品やエネルギー価格を除いたコアコアCPIで見るべきで、よく報道される物価上昇率は、意図的なのかどうかはわかりませんが、総合指数だったり、生鮮食料品を除いたコアCPIで示されることが多いようです。

以下に示す通り、2022年6月時点でのCPI(総合指数)は、2.4ですがコアコアCPIは0.2です。

池上氏が言う通り、プラスチック製品は、石油製品ですが、石油価格に影響される商品が他にも多いことを考えると、実際のコアコアCPIはもっと低い値が予想されます。

すなわち、日本はまだまだデフレであるということです。

日銀の金融政策とデフレスパイラル

アベノミクスが失敗したのは、日銀の金融政策のみに頼り、政府の積極的な財政政策が行われなかったからです。

景気を上向かせるための日銀の行った金融政策とは、日銀が市中銀行から大量の国債を買い上げ、市中銀行の当座預金を増やし、これによって、企業や個人が低金利でお金を積極的に借入れることで経済が活性化すると言うものです。しかし、デフレ下で企業に投資意欲がなければ、個人も将来的に給料が上がり返済する見込みがなければ銀行からお金を借りることはありません。

また、投資意欲のない企業は、それ以上の利益を出すことが出来ず、結果として、従業員の給料は上がりません。場合によっては、業績の悪化で、企業は廃業に追い込まれたり、従業員を解雇するかもしれません。

従業員の給料が上がらないのですから、消費は増えません。

消費が増えないので、企業は利益を増やせませんから新たな投資をしたり従業員の給料を上げたりしません。

この循環をデフレスパイラルと呼び、日本では24年間、この状態が続いてきたのです。

積極財政への転換

従来の主流派経済学は、財政健全化を重視し、財政政策は効果に乏しいとされておりましたが、2008年の世界金融危機以降、先進国経済は、低成長、低インフレ、低金利の状態が続きました。

この長期停滞が、米国の主流派経済学における政策論に大きな変化をもたらしました。

主流派経済学の重鎮ローレンス・サマーズ氏やかつてのFRB(連邦準備制度理事会)議長のジャネット・イエレン氏(現財務長官)、米大統領経済諮問委員会委員長ジェイソン・ファーマン氏らはいずれも、財政政策に関して、肯定的な見解を述べており、政府による積極的な財政による経済運営をイエレン氏は高圧経済と呼びました。

バイデン政権は、成立直後から、画期的な経済政策を打ち出し、その第一弾となったのは、「米国救済計画」と称する1.9兆ドル(約200兆円)もの大型追加経済対策でした。

新型コロナウイルス対策の医療対策に加えて、現金給付や失業給付の特例加算、そして地方政府支援などで構成されておりました。

この「米国救済計画」の1.9兆ドルに、トランプ政権下の20年3〜12月において発動された経済対策を合わせると、なんと5.8兆ドル(名目GDP比28%)にもなります。

リーマン・ショック時の経済対策が1.5兆ドルでしたから、いかに大きな財政出動であったかがわかります。

アメリカ、ヨーロッパでの経済のV時回復

アメリカやヨーロッパ先進諸国では、政府の積極的な財政政策により、需要を喚起し供給を上回るかたちで経済成長してきたのです。

コロナ禍においての政府の経済政策については、先に挙げたアメリカ以外でも、イギリスやフランスでは政府が7〜8割の給与補償を行い、ドイツでは付加価値税を下げております。

それらに比べ、日本では10万円の給付は1回だけ。雇用調整助成金、持続化給金制度等ありましたが、欧米諸国に比べれば財政支出はかなり小さいものでした。

またGo to Travelなど予算は立てられましたが、あまりにも慎重にタイミングを測ったため、未だ執行されていないものもあります。

コロナの重症化リスクが下がり、経済活動が本格化すると、アメリカやヨーロッパ先進諸国では一挙に経済はV字回復しました。

あまりに急激に需要が伸びたため、物流の停滞や半導体不足により供給が追いつかず、そこにロシアのウクライナ侵略戦争が始まりました。

アメリカやヨーロッパ先進諸国では、需要が供給を上回るデイマンドプルインフレに、供給が不足するコストプッシュインフレが重なった状態です。

一方、日本の需要は弱く(デフレ状態)、単に供給が不足するコストプッシュインフレ状態です。

ここをしっかり押さえなければなりません。

物価上昇率を総合指数だけ見て、日銀が掲げた2%を超えたので金利を上げるべきだと主張するのは間違いです。日銀が言うように、給料が上がっていない状況(需要不足)で、金利を上げるべきではありません。

金利を上げてしまえば、企業の投資意欲や(住宅ローンを組むためなどの)個人の借入意欲はさらに減退し、益々景気は悪化するでしょう。

池上氏の議論ー金融緩和を続けるべきか、やめるべきか

日本の物価の上昇は、何回も繰り返しますが、ロシアのウクライナ侵略戦争による原油高や小麦の高騰によるもので、外的要因による、つまり、コストプッシュインフレだと言うことです。

日本は、政府の経済政策の失敗により、24年間もデフレを抜け出すことが出来ていません。

高橋洋一氏によれば、日本のデフレギャップは今や30兆円にも及びそれに相当する政府の積極的な財政出動が必要だと主張しております。

日本の金融政策(低金利)の持続により、欧米諸国との金利差が広がり、これが輸入物価を押し上げている側面はありますが、先ほど述べたように日本はデフレ状態ですので、まずは、需要が高まるような政策、すなわち政府による積極的な財政政策が必要であり、金融緩和政策は維持すべきと考えます。

では、財政政策として何が必要なのか。

最近、政府が小麦を卸す際の価格(海外から輸入する小麦の大部分を政府が買い付けて製粉会社に売り渡す)を据え置くとの発表がありましたが、もっと早くにやるべきでした。

ガソリンも元売り補助ではなく、トリガー条項の規定により、下げるべきです。

実はもっと効果的な方法があります。それは消費税の廃止です。

政府の消費税収入は22兆円ほどあり、これでデフレギャップがかなり埋まります。

消費税の撤廃は、国民の購買欲を高め、企業活動も活発化し、結果的に政府の税収増加に繋がります。

それでは、社会保障費の財源がなくなるのでは。

そんな事はありません。足りない分は国債で賄えば済む話です。

金利を上げるのは、需要が高まり、実質の消費者物価指数(コアコアCPI)が2〜4%を超える時です。

池上氏が言うように、金融緩和を止めれば国債の金利は上がり、政府の返済額は増えます。

現在、国債の50%を日銀が保有しており、政府と日銀は親会社ー子会社の関係です。政府が日銀に利払しても、金利のうち日銀が諸経費を引いた残り分は国庫納付金として政府に戻ります。

また、日本国債のうち外国の所有は、わずか7.94%であり、しかも円で所有しております。

残りは国内の銀行や保険会社などの機関投資家が保有し、金利を得れば、当然政府に税を払わなければなりません。

従って、国債金利が上がっても政府に何も問題は起こりません。

仮に、利払が相当多くなっても、日本政府には、通貨発行権があリ、企業や個人のようにどこかから調達してくる必要はありません。

国債金利が上がると日銀に損出が出て、国の財政状態がさらに悪化し、日本円の価値が下がり、一段と円安が進む?!

池上氏が述べたように、国債の金利が上がれば、国債の債権価値は下がり、金利と債券価格は相反する動きをします。

国債金利が上がると日銀に損出が出るのかの問いに対し、高橋洋一氏は次のように説明しています。

日銀は国債を買うとき日本銀行券(つまりお札)を刷って買います。

これにはほとんど元手がかかりません。

1万円札を刷るのに原価は20円ほどと言われております。

日銀が100の価値のある国債を日本銀行券を刷って手に入れ、仮に債権価値が97に減っても、元手がほとんど0だった日本銀行券で買った国債が100になって97に減ったと言うだけのことですと。

池上氏は、日銀が収益をあげないと日本政府の財政に影響があるように述べておりますが、そんな話は聞いたことがありません。

日銀に損害が出ると、日本のお金の価値が下がるかもしれない。そして、一段と円安が進んでしまうかもしれないというのも全くナンセンスな話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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