経済

第99回 もういい加減にしてほしい-財政破綻の亡霊

国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議の報告書

11月22日、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は、防衛力を5年以内に抜本強化するよう求めた報告書を公表しました。

詳細は、各紙に委ねるとして、以下の3つに分けて論じています。

1.防衛力の抜本的強化について

2.縦割りを打破した総合的な防衛体制の強化について

3.経済財政の在り方について

特に、私が注目したのは、3.経済財政の在り方についての(2)財源の確保(1)防衛力強化と経済財政です。

順次、見てゆきましょう。

(2)財源の確保

防衛力の財源についてはその規模と内容にふさわしいものとする必要がある。防衛力の抜本的強化に当たっては、自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識を多くの国民に共有して頂くことが大切だ。その上で、将来にわたって継続して安定して取り組む必要がある以上、安定した財源の確保が基本だ。これらの観点からは、防衛力の抜本的強化のための財源は今を生きる世代全体で分かち合っていくべきだ

財源確保の検討に際しては、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべきだ。透明性の高い議論と目に見える歳出の効率化を行うことにより、はじめて追加的な財源確保についての国民の理解が得られるものであることを忘れてはならない。防衛関係予算は非社会保障関係費に属することから、政府の継続的な歳出改革の取り組みとしては非社会保障関係費が対象となる。また、過去のコロナ対策で国民の手元に届くことなく独立行政法人に積み上がった積立金の早期返納などを財源確保につなげる工夫も必要だ。

歳出改革の取り組みを継続的に行うことを前提として、なお足らざる部分については国民全体で負担することを視野に入れなければならない。歳出のタイミングと歳入のタイミングがずれることに伴う期間調整の仕組みや、防衛力の抜本的な強化の内容と他経費とのバランスを踏まえた検討は必要であるとしても、国債発行が前提となることがあってはならない

歴史を振り返れば、戦前、多額の国債が発行され、終戦直後にインフレが生じ、その過程で国債を保有していた国民の資産が犠牲になったという重い事実があった。第2次大戦後に、安定的な税制の確立を目指し税制改正がなされるなど国民の理解を得て歳入増の努力が重ねられてきたのはこうした歴史の教訓があったからだ。

そうした先人の努力の土台の上に立って、国を守る防衛力強化が急務となっているなか、国を守るのは国民全体の課題であり、国民全体の協力が不可欠であることを政治が真正面から説き、負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要なことを明確にして理解を得る努力を行うべきだ。持続的な経済成長実現と財政基盤確保とを同時に達成するという視点に立ち、国民各層の負担能力や現下の経済情勢へ配慮しつつ、財源確保の具体的な道筋をつける必要がある。その際、高齢化が進むなかで今後も社会保険料などの負担が増すことを踏まえるとともに、成長と分配の好循環の実現に向け多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいるなか、こうした企業の努力に水を差すことのないよう議論を深めていくべきだ。

要は、防衛費の増額分は、老朽化したインフラ整備やこれから確実に訪れるであろう大地震に備えての投資やエネルギーや食糧確保のための施策など非社会保障関係費をカットした上でも足りなければ国民に所得税等を介して負担して貰うということです。これにより、防衛体制が整えられたとしても、今度は、日本国民は、災害やエネルギー、食糧不足で滅ぶということです。

成長と分配の好循環の実現に向け多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいるとして、法人税を充てる案は、なぜか、抜け落ちてしまいました。明らかに経団連への配慮です。

また、国債発行が前提となることがあってはならないとしており、戦前、多額の国債が発行され、終戦直後にインフレが生じ、その過程で国債を保有していた国民の資産が犠牲になったという重い事実があったからとしています。

本当にそうでしょうか?

戦費の調達に国債を多く発行したことが、戦後の高インフレの原因だとよく言われますが、クレディセゾン主席研究員の島倉原氏は、以下のように分析しました。

1946年度の高インフレの特殊要因は、
・戦後処理費などの政府需要の窮状
・貿易途絶による原材料不足や敗戦による労働力不足など、敗戦による供給能力の崩壊
・軍事優先の統制経済の反動等により家計支出の急増

以上3点を挙げ、戦前の財政赤字急拡大は政府の過剰支出ではなく、統制経済の結果に過ぎないため、戦後のインフレ原因とは言えないとしています。

 

(1)防衛力強化と経済財政

国力としての防衛力を強化するためにも経済力を強化する必要がある。防衛力強化には先端技術の開発や防衛産業の振興など日本の経済力強化につなげられそうな糸口が複数ある。

さらに、日本の財政基盤の強化も欠かせない。日本が抱える脆弱性として中長期的に国力低下の要因となり得る少子化・人口減少に加え、有事における金融・財政の持続可能性が挙げられる。有事を想定した総合的な防衛体制の強化には持続性のある経済力・財政基盤の強化とそれに対する国民の理解が必要だ。有事の際に日本経済・金融システムにどのようなリスクが発生するのか、それらのリスクをいかに最小化して、日本経済・金融システムを守るのかをあらかじめ検討しておくことが重要になる。

海外依存度が高い日本経済にとっては、エネルギーなどの資源確保とともに国際的な金融市場の信認を確保することが死活的に重要だ。足元では貿易赤字が続くとともに、長期的には成熟した債権国としての地位も盤石である保証はない。資金調達を海外投資家に依存せざるを得ない事態に備えることも念頭におく必要がある。

英国政府の大型減税策が大幅なポンド安を招いたことは国際的なマーケットからの信認を維持することの重要性を示唆しており、既に公的債務残高の国内総生産(GDP)比が高い日本は、なおさらそのことを特に認識しなければならない。加えて、安全保障上のツールとして金融制裁を活用するケースが増えてきており、金融市場に強いストレスがかかった際、有事における日本経済の安定を維持できる経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない点にも留意が必要だ。その意味で、防衛力の抜本的強化を図るには経済情勢や国民生活の実態に配慮しつつ、財政基盤を強化することが重要だ。

当時のトラス首相が大型減税策を打ち出した事が、国際的なマーケットからの信認を失いポンド安を招いたとしており、既に公的債務残高の国内総生産(GDP)比が高い日本は、なおさらそのことを特に認識しなければならないと述べております。ここでも日本政府の国債発行による財政支出は許さないと言っております。

英国など欧米諸国は日本と違って、需要が旺盛な上、コストプッシュが重なったインフレ状態であり、英国の金融市場では「景気刺激策→インフレ高進→金融引き締め圧力増大」との連想が生じました。景気刺激策が未曾有のインフレ(8月の消費者物価上昇率は約10%)に拍車をかけてしまうことで、かえって英国経済が混乱するとの見方から株式は下落し、債券と通貨ポンドは急落したということです。

単に、大型減税策を打ち出したからと言って、マーケットからの信認を失い、ポンド安になった訳ではありません。

当時の英国にとっては、減税策は間違いであったと言うことです。

では、日本はどうか。

燃料や食料を大幅に海外に依存する日本では、コストプッシュ要因でインフレになっているのであり、国内需要はまだまだ足りていません(日銀の黒田総裁が言うように充分な実質賃金の上昇はない)。

日本では、皮肉なことに、このコストプッシュインフレ下で政府は最高の税収をあげています。

日本国民が、不況で物価高で喘いでいるのですから、税収が増えた分、政府は国民に還元すべき(すなわち減税)と思いますが、聞こえてくるのは増税案ばかりです。

防衛費増額は国債で賄うべき

第98回のブログで述べた繰り返しになりますが、

自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいくらでも国債を発行して、財政支出ができるわけですから、税収と関係なく、必要な分を財政支出として賄えます。

つまり、防衛費はもちろん、老朽化したインフラ整備やこれから確実に訪れるであろう大地震に備えての投資やエネルギーや食糧確保のための施策にも必要な分だけ積み増しできるということです。

2015年の時点で、債務残高は名目金額で明治初期(1872年)の3740万倍になり、実質でも546倍になりました。

また、1970年から2020年までに債務残高は名目金額で166倍になリました。

しかし、未だに日本では国債金利の上昇やハイパーインフレは起こっておりません。

日本の国債の償還は、他の先進諸国と同じように新たな国債の発行による借り換えで行っており、これを未来永劫続ければ良いだけです。

また、日本だけで行われている馬鹿げた国債60年償還ルールなど即座に撤廃すると良い。

アメリカやヨーロッパなどの先進諸国では、政府の負担は国債の金利だけです。

日本では、日銀が国債の約50%を保有していることや日銀が政府の子会社であるという事実から、日本政府が負う国債金利は全く負担になっておりません。

財政破綻などあり得ないのです。

今、日本に必要なのはトレードオフの議論ではありません。

必要な施策をしっかり捕まえ、国債を財源として実行すれば良いのです。

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